いまこそ日本の自立を!
        千葉大学大学院公共研究センターCOEフェロー 上村 雄彦

地球環境問題や途上国の貧困問題、
世界の紛争問題が深刻であることは、もう十二分に言われ尽しているが、
残念ながら状況改善の兆しは一向に見られない。
それどころか、状況は悪化の一途である。
その一大要因は日本にあるというと、言いすぎだろうか?

2002年の日本の食料自給率は穀物換算で28%、
エネルギー自給率は2000年で4%である。
この自給率の低さは日本だけの問題ではない。
なぜなら日本は自給できない食糧を海外、
特に途上国から大量に輸入することで 、
途上国において飢餓・貧困を引き起こし、
エネルギーや資源を海外から大量に輸入することで、
甚大な環境破壊を引き起こしているからである。

日本は世界一の食糧輸入国で、
世界の農産物輸入額の10.9%を占めているが、
それが意味していることは、
現地で作物を大量に生産させて、
水と土地の栄養を略奪しているということであり、
その水の量は年間438.6億トン立方メーター、
すなわち日本人の生活用水使用量換算で年間3.7億人分の水に相当する。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、
地球温暖化の影響で2025年に50億人が水不足に直面すること 、
国連が2050年に最悪の場合70億人が水不足に陥ることを
警告していることを鑑みると、日本の大量食糧輸入による負の影響は計り知れない。

さらに、途上国では往々にして一番肥沃な土地が
先進国の消費者のための換金作物
(たとえば、コーヒー、紅茶、油やし、たばこ、バナナなど)
栽培のための土地に転換され、
現地の主食の自給率を低下させている。
換金作物を栽培することによって、
現地の人たちも潤っているという議論も可能かもしれないが、
現実にはこれらの一次産品は価格が不安定で、
特に多くの人が換金作物栽培に従事することで供給が過剰になり、
価格は下落し、飢餓・貧困に陥るという「換金作物の罠」が待ち受けている。

同様に、日本は自国で供給できないエネルギーや資源を調達するために、
世界各国で石油開発、鉱山開発、銅山開発などの資源開発を大々的に行い、
環境を破壊している。
たとえば、指輪の原料である金を採取するためには、
森林を破壊し、表土を剥ぎ、
岩盤を爆破しながら地中に眠るわずかな鉱石を採取する。
そして、一つの小さな金の指輪をつくるために、
結果として3トンから10トンもの土砂が削り取られる。
このようにして、金1トン取り出すために、
136万トンが廃棄物になる。
日本全体では、年間6.7億トンの資源を海外から輸入しているので、
その環境に与える負荷の大きさは推して知るべしである。

しかも、日本が海外から大量のエネルギー、
資源を輸入する行為は紛争の要因ともなる。
今日の紛争はイデオロギーよりも資源の支配や略奪をめぐるものに移行しており、
鉱物や木材をはじめとする経済価値のある産品に富む土地を占領し、
市場への流通の拠点を支配することにますます重点が移ってきている。
実際に、2000年に世界中で起こった49の武力紛争の4分の1は、
資源採取と深くかかわっている。
たとえば、コロンビア、ナイジェリア、インドネシアなどは石油が、
パプアニューギニアやエクアドルは銅が、
カンボジアはサファイア、ルビー、木材が、
アンゴラやシエラレオネではダイアモンドが、
コンゴ民主共和国ではタンタル鉱石が紛争の大きな要因になっている。
この点について、シエラレオネのカマラ国連大使は2000年7月に
「〔シエラレオネの〕紛争はイデオロギーに基づくものでも、
部族的なものでも、
地域間対立によるものでもないと私たちはこれまでずっと主張してきた。
紛争の原因は1から10まですべてダイアモンドなのだ」と語っている。

石油、銅、木材はもちろんのこと、
ダイアモンドなどの貴金属も裕福な先進国の消費者によって
大量に購入されている。
タンタルは超小型コンデンサーの製造に欠かせない物質で、
携帯電話、ノートパソコンなどの電子機器で使用されているが、
それらを主に使っているのも先進国の消費者である。
しかし、紛争地域の資源を大量に購入すれば、
紛争をしている当事者に収入が入り、それが武器に変わる。
つまり、日本人が何も知らずに紛争地域の資源を大量に使い、
捨てる行為自体が紛争に油を注いでいるのである。

しかし、日本の食糧、エネルギーの自給率の低さが問題なのは
これだけではない。
近い将来日本が食糧危機、エネルギー危機に陥る可能性がある。
現在63億人である人口が2050年には89億人なることが予測されている。
これまでは、農地の拡大と農業の近代化などによる生産性の向上で
急増する人口を養ってきたが、
農地の拡大はすでにほぼ限界点に達し、
農業の近代化による生産性の向上もついに頭打ちになった。
その結果、急増する人口に食糧生産が追いつかず、
2030年には世界全体で5億2600万トン、
つまり約15億人分の食糧が不足することが予測されている。
そこに、先に見た温暖化や水不足の影響などを考えると、
このままでは食糧危機は避けられない状況に近づいていると言わざるをえない。
その時、食糧自給率28%の日本がどうなるかは想像に難くないだろう。

石油を始めとする化石燃料も有限であり、
特に石油はあと40年ほどで枯渇すると言われている。
実際、経済産業省・資源エネルギー庁と
財団法人エネルギー総合工学研究所が共同で設置した
「超長期エネルギー技術研究会」がまとめた「超長期エネルギー計画」の骨格では、
「産業」「家庭用などの民生」「運輸」「電力」の4分野のうち、
2050年には運輸以外で石油の消費がほぼなくなる社会を想定している。
その時、エネルギー自給率4%の日本の未来は明るいものであるはずがない。

さらに、それがなければ生存できない食糧と
エネルギーのほとんどを海外に頼るということは、
外交についても本当の意味で自立できないということになる。
たとえば、日本が独自の外交政策を展開しようとした時に、
もし不幸なことにアメリカの理解が得られず、
それをさせまいとアメリカがホルムズ海峡に空母を出動させ、
石油を満載したタンカーを停止させる、
あるいは大量の食料を積んだ船が
日本に入港しないように妨害をするようなことがあれば、
日本は干上がるほかない。
本当の意味で自立した外交政策を行なうためには、
可能な限り食糧とエネルギーに関しては
自給自足に近づけることをめざすべきなのである。
今後世界的な食糧不足や資源の枯渇が予測されるならば、
なおさら自給自足の方向性は現実性を持って求められるだろう。

それでは、一体どうすれば日本は自立できるのだろうか? 
その際、鍵になる概念は、
地域、LOHAS(Lifestyles of Health and Sustainability、
健康と環境に配慮したライフスタイル)、
エコ・ヴィレッジ、ネットワーキング、
そしてパートナーシップである。
その詳細については、8月19日の講演会で述べてみたい。

上村 雄彦

千葉大学大学院公共研究センターCOEフェロー
 日本自立プロジェクト・コーディネーター
 国連、NGO、大学での勤務を通じて、
 地球規模問題の深刻さとその根本原因が先進国にあることを痛感し、
 非対立の姿勢で共に考える講演、研究、ネットワーキングを行っている。

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