日本人の食生活
                      鈴木 猛夫

第2回 平均寿命が延びた理由は
 
 日本人の平均寿命が延びたのは
 戦後の栄養教育が正しかったからではないかという意見があります。
 しかし本当でしょうか。
 私は他の理由で寿命が延びたのだと考えています。
 戦前に多かった結核、気管支炎、腸チフスなどの
 感染症が戦後は衛生改善、食料の安定供給、医療の充実、
 社会の安定などによって極端に減少してきました。
 さらに乳幼児の死亡率も医療関係者の努力で大きく改善されました。

 戦前までの過酷な農作業は寿命を縮める一因でしたが
 今では農作業も機械化され昔ほどではなくなりました。
 農業人口は減少し多くが都会生活者になり
 過酷な労働からは解放されました。

 昔はとても助からなかった病人でも病院設備の充実、
 新薬開発、手術など医療の驚くべき進歩で救われるようになりました。
 さらに延命治療も格段に進歩してきました。

 昔は年をとって働けなくなると口減らしの為の
 「姥捨て山」の風習が各地にありましたが、
 今では老人介護にも手がさしのべられるようになりました。
 昔に比べてはるかに治安が向上し社会も安定してきました。
 心のゆとりが生まれたことは寿命を延ばす大事な要素です。

 日本人の歴史は飢餓との戦いの歴史でもありました。
 正に食糧難と表裏一体の生活でした。
 明治、大正時代でも各地で米一揆が頻発したほどです。
 戦後は農業の発展、流通の整備などで
 食糧供給は飛躍的に安定してきました。
 このことは平均寿命の飛躍的な伸びを可能にした大きな要因です。

 これらの理由で寿命は大きく延びました。
 しかしこの中に戦後の栄養教育のおかげで
 寿命が伸びたという項目があるでしょうか。
 戦後の栄養指導に沿った食生活をしてきたから
 寿命が延びてきたわけではありません。
 逆に戦後の栄養指導を守った為にガン、心臓病、動脈硬化などの
 欧米型の病気やアトピーなどのアレルギー症状が急増しています。
 指導されてきたごく「普通の」食事をしたから
 病気になるという恐ろしい時代になりました。

 欧米型の病気は戦前まで少なかった病気です。
 戦前多かった感染症などの病気が克服されてきたのですから、
 もう病気からかなり開放されてもよさそうなものですが、
 感染症などに代わって欧米型疾患という
 新たな病気に悩まされることになったのです。
 これは明らかに戦後の栄養指導を間違えた結果です。

 現在、90歳、100歳の高齢者の割合が増えてきました。
 しかし体を作る大事な成長期に何を食べていたかというと
 決して肉や牛乳で育ったのではありません。
 貧しいと言われてきた味噌汁や漬物などの粗食で育ってきたのです。
 逆に現代栄養学で指導されてきた
 「豊かな」食生活をしている今の若者が天寿をまっとう出来るでしょうか。
 とても無理なことだと思います。
 「明治の長命、昭和の短命」はほぼ確実な情勢です。
 一体この責任は誰が取るのでしょうか。

 結局「戦後の栄養指導が正しかったから平均寿命が伸びた」のではなく、
 欧米型疾患を増やしただけという
 とんでもない栄養指導だったのです。
 このことは栄養関係者は決して認めようとはしません。
 何故なら今まの業績が全て否定されることにも繋がることだからです。
 それだけに厄介なのです。
 自分たちは正しいことをやってきたという
 強烈な思い込みがあるからです。
 日本人の食生活を欧米型にすることが
 健康増進に寄与するというおかしな思い込みでしかないのです。
 そのおかしさに気づかない限り改善しようという気持は生まれません。

 私なりに戦後の栄養教育の良かった点を探し出そうと努力しました。
 しかしどうしても見つからないのです。
 逆にこのような栄養教育だったら
 無かったほうが良かったのではないかと思うことばかりなのです。
 どなたか戦後の栄養教育の利点をご存知の方は是非教えて欲しいものです。
 これは決して皮肉ではなく心底知りたいと思っています。
 よろしくお願いします。

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